『やあ。ようこそ我が家へ。入りたまえ』

インターフォン越しに博士の声。入室を促され、自動ドアがスライドする。
僕は中に足を踏み入れて驚嘆する。最新鋭の機械設備が並ぶ室内。
流石は僕の恩師だ。科学者として名を馳せただけのことはある。

『そこの椅子に掛けたまえ。お茶はいかがかね』

室内に設置されたスピーカーから聞こえる博士の声。
椅子に腰掛けると、ロボットがお茶を持ってきた。
室内に博士の姿はない。どうして博士は姿を見せないのだろう。

『久しぶりだね。姿を見せぬ無礼を許して欲しい。
 君も知っていると思うが、私は難病にかかって引退した。
 病に蝕まれた醜い姿を、あまり人には見せたくないのだ』

それなら、ネットを介して話せばいいのに。
どうしてわざわざ僕を呼び出したりしたのだろう。
ロボットが差し出したお茶を受け取りながら、
僕は博士に問いかける。

『ふむ。まあ、そのあたりも後ほど説明するとしよう。
 その前に、少し私の身の上話を聞いてくれるかね』

『さっきも言ったが、私の身体は難病に冒された。
 手足の先端から身体が壊死していく病気だよ。
 現代の医療技術では、壊死した部位を切除するしか方法はなかった。
 自分の身体が失われてゆく恐怖を、君は想像できるかね』

『まず足首。膝。太腿。私は車椅子の生活になった。
 次に手首。肘。二の腕。私は一人で食事することもできなくなった。
 そこで私は手足を義体化することにした。
 最新の義体は全く違和感なく装着し、自由に動かすことができる』

『しかし、それは一時しのぎに過ぎなかった。
 病気の進行が思いのほか早くてね。
 手足を切断しても、病気の進行を食い止めることができなかったのだ。
 病気は私の内臓まで蝕んだ。内臓には複雑な機能がある。
 手足のように簡単に義体化できるわけではない』

『それでも、私は生きたかった。死ぬのが怖かったのだ。
 私は壊死してゆく内臓を機械に置き換えた。
 消化器官、呼吸器官、代謝器官、循環器官。
 内臓を機械で代用するためには、大きな設備と費用が必要となった』

『私は金を惜しまなかった。そうして出来たのが、この家だ。
 そう。この家は私の身体なのだよ』

『私はロボットを端末として操作して体調管理を行った。
 だが、ついに病気の進行は残された頭部にまで及んだ。
 私は頭部の機能も機械に置き換えることにした。
 目はカメラに。耳はマイクに。喉はスピーカーに。
 味覚と嗅覚は残念だが切り捨てた』

『ここにきて、ようやく病気の進行は止まった。
 私には脳だけが残された。あとは全て機械の身体だ。
 手足も。内臓も。感覚も。なんとか機械で代用することができた。
 けれども、そんなもの所詮は紛い物だ。
 こんな身体では自由に外を出歩くことも出来ないのだから』

『だからね。私はどうにか新しい肉体を手に入れようと思った。
 そして、私は全国の医療機関のデータベースにハッキングして、
 私の脳に適合する身体の持ち主を探し、見つけ出すことに成功した。
 私は驚いたよ。それは私の知っている人物だったのだから』

『おっと。逃げようとしたって無駄だよ。この部屋は私の体内なのだから。
 それに君が飲んだお茶には身体を動けなくする薬が入っていたんだ。
 どうかね。そろそろ効いてきた頃だろう。
 まあ、安心したまえ。君には代わりにこの家をあげるから』

人気ブログ 2008/05/11 ショートショート TB(0) CO(5)

ショートショート/ショートショート/ショートショート/ショートショート

オチが結構怖いですね!
こんな恩師は嫌だ〜!!

[2008/05/11 23:05] りぃな [ 編集 ]

読ませていただきました。

正直なところ、オチが読めてしまいました。

[2008/05/12 02:55] ショートショート好き [ 編集 ]

宮沢賢治の「注文の多い料理屋」を思い出しました。
SFチックでいいですね。

[2008/05/12 18:42] 神戸の保険マン [ 編集 ]

まぁオチは平凡かもしれません。

[2008/05/27 15:17] ペンギン666 [ 編集 ]

怖っ!

おっと〜〜☆
なんか 怖いですね〜☆


[2008/06/24 00:15] ikeママン [ 編集 ]

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