ある朝、俺は違和感を覚えて目を覚ました。
部屋の中を見回してみるが、別段、変わった様子はない。
気のせいか。朝食を食べよう。
いつものように朝食を作ろうと冷蔵庫の扉に手をかけたとき、
俺は違和感の正体に気がついた。

手がない。そうだ。俺の手が見えない。
手だけではない。腕も、腹も、足も、何も見えない。
俺は慌てて洗面所に駆け込み、鏡を覗いた。
そこに俺の姿は映っていなかった。
これはいったいどうしたことだ。俺は首を捻った。
寝ている間に何かあったのだろうか。
まさか俺は寝ている間に死んで、幽霊にでもなってしまったのか。

そんな、まさか。俺は生きている。
目は見えているし、音も聞こえる。
胸に手を当てれば、心臓の鼓動が確かめられる。
そうだ。感覚はある。物を触れば、ちゃんと感触がある。
それだけではない。物を動かすこともできる。
ただ身体が見えないだけなのだ。

透明人間。そんな言葉が思い浮かんだ。
昔のSF映画で見たことがある。
何かの実験の事故か何かで、身体が透明になった人間の話だ。
俺は映画の主人公のように、透明人間になってしまったらしい。
いったいどうしてこんなことに。俺は頭を抱えた。
こんな姿では会社に出勤することもできないじゃないか。

いや、待てよ。俺は考え直した。
何が原因か分からないが、せっかく透明人間になれたのだ。
普段できないことをやってみるのもいいだろう。
何しろ透明人間なのだ。周りの人間からは見えないのだ。
何をしたって咎められることはない。俺は自由を手に入れたのだ。
そうとも。こんな素晴らしいことはない。楽しまなければ損だ。

俺は外に出てみた。街はいつもと変わらず動いていた。
さて、何をしようか。そういえば朝食を摂っていなかった。
俺は朝食を出しているレストランの厨房に忍び込んだ。
料理人たちに気づかれやしないかと少しヒヤヒヤしたが、大丈夫のようだ。
よし、トーストにベーコンに目玉焼きを頂戴しよう。

ところが、いざ食べていると料理人の悲鳴があがった。
どうしてバレたのだ。俺は自分の腹を見て気がついた。
飲み込んだ食べ物が見えている。
消化中のそれは見た目が気持ちが悪く、俺は思わず嘔吐した。
俺は料理人たちの騒動を後に逃げ出した。

レストランを出たところで車に轢かれそうになった。
怒鳴りつけてやると、車の運転手は不思議そうに周りを見渡した。
そうだ。俺の姿は見えていないんだった。これは気をつけねば。
人や車とぶつかりなっても、こちらが避けるしかない。

俺は街を彷徨った。行く宛などない。
これからどうすればいいのだ。どうすれば元の姿に戻れるだろう。
どこかの研究機関に助けを求めようか。
しかし、それで元に戻れる保証なんてない。
それどころか、人体実験の対象にされてしまいそうだ。
俺は嫌な想像を膨らませて身震いした。

いずれにしても、もはや今までと同じような生活は送れまい。
であれば、仕方がない。とにかく、生活の拠点を探そう。
俺は悩んだ挙句、ホテルで暮らすことにした。
人の出入りが激しい場所ならば、俺の気配に気づかれにくい。
美味しい食べ物もある。夜の寒さを凌げる。風呂やトイレもある。

かくして俺はホテルに住み着いた。
食べ物を消化している間は身動きが取れない。
腹が空いたら厨房に忍び込んで、こっそり料理を盗んでくる。
バレないように、色んなものを少しずつだ。
使われていない客間でそれを食べる。
ベッドや風呂は使ったら綺麗にしておく。
俺はそんな生活を続けた。

「ねえ、知ってる? このホテルって幽霊が出るんだって」



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人気ブログ 2008/05/19 ショートショート TB(0) CO(4)

ショートショート/ショートショート/ショートショート/ショートショート

バレないようにってwww.バレてるwww.バレてるwww.

[2008/05/19 11:54] 狐狸 [ 編集 ]

胃の中のものは見えても、

便は見えないんですね(・o・)

[2008/05/19 14:33] なつこ [ 編集 ]

女子の更衣室とか
美人の部屋は覗かないんだ(^ε^

実は普通に幽霊だったとか!?


[2008/05/20 03:05] 梨月 [ 編集 ]

これはかなり面白い!

[2008/05/27 15:00] カズマ [ 編集 ]

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