チリチリチリチリチリチリチリチリ。
『おはようございます。お目覚めの時間です』
頭に電波が届いて、私は目を覚ます。
午前八時。今日も時間ピッタリの目覚まし電波。
『今朝のニュースは……』
頭の中に響くアナウンサーの声を聞きながら朝食を摂る。

後頭部に埋め込まれた超小型電波式情報端末装置――
通称、電波チップは現代人の生活になくてはならないものだ。
はじめは物好きな金持ちだけのものだったが、
今では国民一人一人に埋め込み手術が義務化されている。
電波センターに情報を送受信することで、様々なサービスを受けられる。
先ほどの目覚まし電波や朝のニュースもその一部だ。

朝、センターからの電波で目を覚まし、
ニュースを聞きながら朝食を終えて、会社へと向かう。
駅の改札は素通りだ。センターと通信することで、
乗車料金が貯金口座から自動で引き落とされる。
電車の中では音楽を聴く。過去に聴いた音楽の好みから、
自動で選曲された音楽が頭の中で再生される。
出勤したらセンターと通信してタイムカードが記録される。
仕事のスケジュールもセンターが管理してくれる。
仕事上で必要な情報があれば、センターに問い合わせればすぐに分かる。

休日も、センターからの電波に頼りっぱなしだ。
例えば映画館で映画を観ようとするとき、
過去に観た映画の好みから自分に合った映画を教えてくれる。
レストランで料理を注文しようとすれば、
味の好みや健康状態や栄養バランスを計算して、適した料理を選んでくれる。
買い物のときも、今の自分に必要な商品かを判断してくれるので、
買ってしまって後悔するようなことはない。
旅行に行きたいと思えば、行き先の好みや混雑状況を考慮して、
スケジュールを組んで予約を取ってくれる。
見知らぬ土地へ行っても、頭の中に地図が表示されるので、
道に迷ってしまうことはない。

そうした様々な状況で掛かる料金は、貯金口座から自動で引き落とされる。
いちいち財布を取り出す必要はない。現金を持ち歩く人なんていない。
レストランで注文するとき、商品を持って店の外に出るとき、
センターと通信して勝手に支払われるので便利だ。
もちろん家賃や光熱費、税金なども自動で引き落とされる。
もしも貯金が足りなくなれば、当然、お金を使うことはできなくなる。
ただし、センターが無駄遣いしないように貯金を管理してくれているので、
滅多にあるような状況ではない。

それでも貯金がなくなって家賃が払えないようなことになれば、
その人は専用の宿泊施設で生活するようになる。
娯楽目的の散財、一定額以上の買い物などが厳しく制限される。
こうした矯正システムのおかげで、身を持ち崩す人も減り、
お金を目的とした犯罪も減った。もっとも、お金を持ち歩く人なんていないが。
それでも物を盗んだり壊したり、人を騙したり、暴力を振るったり、
などという犯罪に手を染める者は稀にいる。
しかし、センターは電波チップの位置、国民一人ひとりの居場所を
常に監視し把握しているので、たちまちのうちに犯人は逮捕される。

まったく、ありがたい世の中だ。
電波に従っていれば失敗を犯すことはない。
仕事も、私生活も、社会制度も、電波のおかげで上手く回っている。
チリチリチリチリチリチリチリ。私は今日も電波を受信する。



↓ 応援してください。

人気ブログ 2008/06/02 ショートショート TB(0) CO(2)

ショートショート/ショートショート/ショートショート/ショートショート

感想

携帯電話もそんな感じですね。
弱電波を発しているので、どこにいるか
だいだいわかるようです。
すでに知らないところで管理されている
かもしれないですね。

[2008/06/02 17:20] starcompassat2005(小説サイト) 星定規 [ 編集 ]

思想も管理

で、仕事にやる気が起きなくなったら、やる気の出る電波を受信させられるんですね

やだな〜 こんな管理国家
何かトイレに行くのも慎重になりそうな気がしますw
あ、これが当たり前ならそんなコト思わなくなるのか・・・ それが一番恐ろしいかな

[2008/06/02 21:05] ななこ [ 編集 ]

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する