古書店に入ったのは全くの気まぐれだった。
旧友と久しぶりに飲もうと待ち合わせをしていて、
時間に余裕があったのでなんとなく立ち寄っただけだ。
漫画、小説、雑誌。古本がたくさん並べられていた。

俺は一冊の漫画の単行本に目を留めた。
ああ。これは。子供の頃に読んだ覚えがある。
少年向けの漫画雑誌に連載されていた漫画の、単行本だった。
俺は好きだったのだが、あまり人気が出なくてすぐに打ち切られた漫画だ。
でも、単行本が出ていたとは知らなかった。

懐かしい。読み直してみたいな。
値札を見ると、プレミアがついているのだろう、
定価の何十倍の値段がついていた。
とはいえ、社会人にとっては安いものだ。
一冊の漫画を買うか迷っていたような子供時代とは違う。
俺は迷うことなくその単行本を買った。

友人と飲んだ後、帰宅してからその漫画を読んだ。
面白い。あの頃の興奮がじわじわと蘇ってくる。一気に読み終えた。
巻末に、同じ作者の作品リストが載っていた。
へえ。不人気作家だと思っていたけど、意外と作品が多かったんだな。
読んでみたい。俺はネットの通販で同じ作者の漫画を取り寄せることにした。

本の通販サイトを見ていると、懐かしい本がたくさんあった。
そういえば、こんな漫画もあったな。ああ、この漫画は熱中したな。
読んだ読んだ、面白かった。いいなあ、読み直したいな。
あれ、こっちは読んでなかったな。読みたいな。よし、読もう。
俺は目に付いた漫画を次々と注文した。
これも読もう。これも買おう。これも注文しておくか。

俺は漫画を集めた。集めることが趣味になった。
この作者の作品も揃えておきたいな。ううむ、ちょっと高いが欲しい。
なに、作者のサインつきか。こんな作品があったのか、買っておこう。
俺は古書店を回り、ネットの通販サイトやオークションサイトを巡って、
懐かしの漫画を集めた。中には、なかなか手に入らないものもあった。
最終巻だけ見つからん。あ、この作者の単行本はレアなんだよな。
プレミアがついているものもあったが、金は惜しまなかった。
自由になる金の多くをつぎ込んだ。

そうしてコレクションは増え続けた。
百冊、五百冊、千冊、五千冊。本棚は一杯になり、新しい本棚を買った。
新しい本棚もすぐに一杯になった。キリがなさそうなので箱に詰めて整理した。
やがてアパートの自室は漫画で一杯になった。
膨大な漫画は生活空間を圧迫した。そこで俺は貸し倉庫を借りた。
箱に詰め込んだ漫画を積み上げた。
そうして借りた倉庫も一杯になり、さらに広い倉庫を借りた。
それでも尚、俺の収集欲は収まらなかった。

俺は生活費を切り崩し、足りなくなると貯金を切り崩した。
貯金がなくなると借金までした。返す当てなどなかった。
もはや破綻は目に見えていた。しかし、止められなかったのだ。
しかし、金がなければ収集は続けられない。

破綻の時はやってきた。
滞納した家賃、倉庫のレンタル料も払えなくなり、
債権者からの取り立ても厳しくなり、ついに俺は破産した。
俺の集めた膨大なコレクションは差し押さえられた。

持っていかないでくれ。泣き叫ぶ俺の前で、
俺のコレクションはトラックの荷台に乗せられて運ばれていった。

人気ブログ 2008/06/07 ショートショート TB(0) CO(2)

ショートショート/ショートショート/ショートショート/ショートショート

お金は使うためのもの

何となく集めてみたら、はまってしまった・・・

ていうのがわたしもあります。
そんな熱中してるわけでもないのに、何となく集めてるものが結構。
もともと、収集癖があるんでしょうけど。
本も、読むというより集める対象になってるかな。読みたい本を、集めてるんだけど。

[2008/06/08 00:07] ななこ [ 編集 ]

皮肉な物ですね。

彼にとって本は読む物だったのか、集めて所持して置く物だったのか…。
始めは読む物だったのに
何とも皮肉な物語でした。

[2008/06/08 17:58] 亜梨須 [ 編集 ]

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