どんなに頑張って生きていても報われないことはあるものだ。
俺はつくづく運のない男だった。
生まれつき身体が弱く、重い病気を患って長期入院したこともあった。
やっと元気になったと思ったら両親を事故でなくし、
親戚中をたらいまわしにされたあげく、
両親の残した僅かばかりの遺産も騙し取られて施設に預けられた。
それでも挫けずに頑張って勉強し、学校での成績は悪くないほうだったが、
やがて成長して社会に出る頃には不況の真っ只中。
やっと見つけた就職先は三ヵ月後に倒産。
以後、いくつかの会社を転々とすることになった。
そんな俺にも愛する人ができたと思いきや、
これまた酷い女で俺に借金を残したまま失踪。呆然とするしかなかった。
どうしてこんなに次々と不幸に見舞われるのだろう。

その頃、俺は友達から飲み会に誘われた。
ネットのオフ会で、無関係な俺が参加してよいものかと思ったが、
ドタキャンで数が足りなくなったからどうしても参加して欲しいという。
あまり乗り気ではなかったのだが無下に断ることもできず、
俺は飲み会に参加することにした。周りの連中が騒がしく飲んでいる中、
部外者の俺は話題についていくことも出来ず、
端っこでチビチビと飲んでいた。その隣にいたのが、彼女だった。

艶のある長い髪。真面目そうな顔立ち。薄い化粧。地味な服装。
決して美人ではないが、かといって不美人でもなく。
影の薄い、地味な女性だった。彼女は俺に話しかけてきた。
くだらない世間話から入って、趣味の話、仕事の話、
そしていつしか俺は彼女に自分の生い立ちや、
今まであった不幸な出来事を話していた。
彼女は親身になって俺の話を聞いてくれた。
彼女に話すことで不思議と癒されるような気分になった。

俺と彼女は付き合い始めた。
デートを重ね、お互いの部屋に通い、そして同居するようになった。
不思議なことに彼女と付き合い始めてからと言うもの、
俺は幸運に恵まれるようになった。
会社では大きな仕事を任されて成功させ、実力を認められた。
支援を受けて独立し、作った会社も大成功を収めて急成長、
マスコミからも注目されるようになった。
二人で暮らすための部屋を探していれば、
丁度良い部屋を格安の家賃で借りることができた。
道を歩いていれば財布を拾い、それを警察に届けたら落とし主から感謝され、
多額の謝礼を受け取ることが出来た。
懸賞に応募すれば豪華な景品が当選し、宝くじを買えば高額当選した。
株に手をつけてみても連戦連勝。
これも彼女のおかげか。彼女は幸福の女神なのだろうか。

数々の幸運な出来事に恵まれた順調な毎日。
かつては冴えない貧乏男だった俺も、
今や世間の注目を浴びるやり手ビジネスマン。
言い寄る美人の女はたくさんいる。
彼女は不美人ではないが地味な女だ。
それに何年も一緒に暮らして飽きてきたところだ。
ちょっとだけのつもりで何人もの女と浮気を繰り返した。

それが彼女にバレた。彼女が怒るのは無理もない。
俺は彼女に謝ったが彼女は怒り心頭で、もう一緒に居たくないという。
荷物をまとめて部屋を出て行こうとする彼女。
待ってくれ。君は幸運の女神なんだ。
君がいなくなったら俺はどうすればいい。
しかし俺の呼びとめにも彼女は耳を貸そうとしない。
俺は出て行こうとする彼女の長い後ろ髪を掴んだ。
するとどうしたことだろう。長い髪がパサリと床に落ちた。

「それ、ウィッグなの。
 今まで黙っていたけど、昔、後頭部を火傷してね」

そう言い残すと、彼女は足早に部屋を出て行った。
俺は一人取り残された。

それからと言うもの、俺は幸運に見放された。
俺の会社は急激に業績が悪化し、ついには倒産。
多額の借金を抱えることになってしまった。
悪いことは重なるもので、過労で身体が弱っていたためか、
子供の頃患っていた病気が再発。
俺は病院のベッドで彼女のウィッグのことを思い出していた。
そういえば、昔の諺にそんなのがあった。

『幸運の女神は後ろ髪がない』

人気ブログ 2008/07/03 ショートショート TB(0) CO(5)

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感想

久々、感想です。
人と人の出会いは確かに人生を左右しますね。

以上。

[2008/07/03 19:51] starcompassat2005(小説サイト) 星定規 [ 編集 ]

成功したからと言って、ライフスタイルを変えたら、成功も変って行きますね。

[2008/07/03 21:03] 神戸の保険マン [ 編集 ]

この男は夢のような日々を味わえてよかったじゃないですか。
意志の弱い凡人が成功のために支払う対価としては格安です。
むしろ心配な彼女の方はお似合いの伴侶が見つかるといいですね。

[2008/07/05 03:52] いちハン [ 編集 ]

前髪のみになるのは嫌ですけど、誰かにとっての幸運の女神になりたいですね。彼女も利用価値という意味でなく、幸運の女神と思ってくれる人に出会ってほしいと思いました。

[2008/07/06 23:06] りぃな [ 編集 ]

落とし方が上手すぎて泣きました(ぇ

[2008/07/16 23:02] おいも [ 編集 ]

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